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訪問看護ステーションさくら

願いを叶える看護

当院では、人生の最終段階における医療・ケアの提供において、多職種から構成される医療・ケアチームで患者等に対し適切な説明と話し合いを行い、患者本人の意思決定を尊重した医療・ケアを提供しています。

当院で行ったエピソードを紹介します。

ウエディングドレス姿での面会

「叶わないかもしれないけど、できればもう一度、家に帰りたい 

    そして、10月にある三女の結婚式に出席することが一番の願い」

この言葉は、肺癌ターミナル期の70代男性A氏の「思い」です。

当時A氏は呼吸状態も徐々に悪化し、苦痛も強く、家族も看取りの覚悟をされている状況でした。

A氏の思いに寄り添い「一番体調の良い時期に自宅へ帰ろう」という目標を定め、医師、特定ケア看護師、病棟看護師、介護福祉士、退院支援看護師、リハビリスタッフが連携しA氏と家族を支援しました。地域の訪問看護師(Co.cocoリハビリ訪問看護ステーション様)や、ケアマネジャーとも連携して、カンファレンスを繰り返しました。日々A氏の思いを傾聴し、家族の不安を和らげながら調整を行い、2週間という期限を決めて自宅退院を実現することができました。

その間は地域の訪問看護師だけでなく、当院の看護師も一緒に退院後訪問を行いました。入院中に最も信頼関係が築けていた受け持ち看護師が訪問することで、症状の観察及び不安の軽減ができ、A氏の闘病意欲も向上できました。A氏は、呼吸状態が悪化することなく、「たくさんの家族と住み慣れた自宅で過ごすことができた」と笑顔で再入院されました。

また、令和6年5月には三女の婚約者、婚約者のご両親との顔合わせを病院で行いました。A氏には顔合わせとだけ伝えてありましたが、サプライズでウエディングドレス姿を披露しました。ベット上ではありましたが、念願のウエディングドレス姿を見ることができたA氏は、「ありがとうね、バケツ一杯の涙が出た。綺麗だった。見られてよかった」と大変喜んでいました。

残念ながら、A氏は令和6年7月に妻、3人の娘や孫達に見守られながら永眠されました。

A氏一番の願いであった10月の結婚式には出席できませんでしたが、A氏の家族からは当院の支援に大変感謝して頂けました。今後も、患者の価値観に少しでも寄り添うことができる病院、地域に必要とされる病院を目指して医療・ケアを提供していきたいと思います。

「てん」に会いたい

「『てん』に会いたい ~238日ふりに叶った愛犬との再会~

当院の5階病棟で、患者さんとその家族、そして”もう一人”の大切な家族との再会を実現した、心あたたまるエピソードがありました。
Aさんは、愛犬「てん」との散歩中に意識を失い、急性大動脈解離で救急搬送されました。術後、脳梗塞も併発し、気管切開を伴う重篤な状態になり、前医では「回復は望めないかもしれない」と伝えられる中、当院へ転院されてきました。

入院後は、ご主人との日々の関わりとスタッフによるリハビリの積み重ねによって、次第に視線を合わせたり、目の動きで反応したりと、、少しずつ変化が現れ始めました。Aさんの病室には、愛犬「てん」の写真が数多く飾られていました。Aさんにとって「てん」はわが子おような存在であり、ご主人にとっても大切な家族の一員でした。ある日、ご主人から「Aとてんを会わせてあげたい」との願いが寄せられました。この家族の”小さな願い”をなんとか叶えたい。そう考えた主治医、看護師、退院支援担当(NDC)、リハビリスタッフなどの多職種が連携し、血圧コントロールや移動手段の確保、面会環境の調整、安全管理や感染対策まで、チームで準備を重ねました。そして迎えた面会当日、238日ぶりに「てん」と再会したAさんの表情は、これまでの入院生活では見られなかったほどの笑顔と涙であふれていました。ご主人や駆けつけた友人の目にも、涙が浮かびます。

ほんの数十分の面会でしたが、それは確かに”家族が再びそろった”特別な時間でした。その後、Aさんは状態を維持したまま、療養病院へと転院されました。

私たちは、患者さんやご家族の「小さな願い」にこそ寄り添い、多職種で協力して実現を目指す医療を大切にしています。「てんとの再会」は、私たちにとっても、心に寄り添う、医療の原点を再確認させてくれる出来事となりました。

孫の晴れ姿を見たい

「お正月は自宅で過ごしたい。孫の成人式の晴れ姿を見たい」

そんな思いを語ってくださったのは、90歳男性のBさんです。

COPDと間質性肺炎により在宅酸素を使用され、再燃による入退院を繰り返されている状態で、長年連れ添った奥様と、看護師として支えている長女さんとの三人暮らしです。「年末の体調を見ながら、自宅への退院を目指そう」と目標を定め、Bさんの希望に寄り添いながら、医師、NDC看護師、病棟看護師、退院支援看護師、介護福祉士、リハビリスタッフが連携して、退院支援の計画が進められました。

退院を前に、もう一つの小さな願いが形になりました。ご家族の協力のもと、年末に行われたお孫さんの成人式前撮りの日、華やかな着物姿での面会が実現しました。病室でのご対面に、Bさんは車椅子に乗りながらも、これまでにない穏やかな笑顔を見せてくださいました。

この出来事をきっかけに、Bさんの食欲や気力にも少しずつ変化が見られました。無事に年末にはご自宅へ退院され、お正月には「みんなに会えて、大好きなお刺身も食べられたし、チャングムも見られた」と笑顔で語られていたのが印象的でした。残念ながら成人式当日は再入院となり、当日の晴れ姿を見ることは叶いませんでしたが、前撮りの日の面会についてご家族からは「小さな願いを叶えていただき、良い思い出になりました」と感謝の言葉をいただきました。

ご本人やご家族の思いにそっと寄り添う

私たちはこれからも、そんな日々のケアを大切にしていきたいと思います。

当院独自の在宅療養支援と特定ケア看護師の役割

「当院独自の在宅療養支援と特定ケア看護師の役割」

患者の退院後からスムーズな在宅療養への移行のために、看護師による退院後訪問指導というサービスをご存知でしょうか。
退院後訪問指導とは、退院後に患者の自宅へ訪問を行い、、在宅療養生活における注意点や問題点について本人・家族を対象に指導やご提案を実施することです。
当院独自(NDCによる)退院後訪問指導のメリットは3つです。
①日常生活の状態観察の一環として身体診療以外に、超音波画像検査を実施による全身状態の観察評価が可能。
②異様の早期発見から、定期外来受診を待たずに、主治医との情報共有から、臨時外来受診対応(状態悪化未然防止)の患者・家族へのご提案
③訪問看護師・ケアマネジャーとの情報共有と、質の高い看護ケアと在宅療養が継続可能なケアプラン調整のご提案

実際の介入一例を下記へ示します。
A氏除脈と嘔気を主訴に当院受診されました。ADLは、手引き歩行レベルの慢性心不全患者の既往がある当院内科かかりつけの96歳女性。自宅へ退院後、退院後訪問指導1回/週を希望にて介入を実施いたしました。
退院後訪問指導(退院後14日目)に実施しました。身体所見と超音波画像所見からは、うっ血や搤水を示唆する所見はありませんでした。自宅での収縮機血圧が90mmHG台と低く、主治医と協議し、薬剤の調整を図りました。下肢筋力維持・向上を目的に訪問リハビリをご提案し、サービス調整を図り、現在では、自力でトイレ歩行まで可能なADL状況まで改善を確認しております。

特定ケア看護師は、”診る”・”看る”・在宅療養の問題点を”見極める”ことが可能であり、在宅こそが自身の存在意義があると自負しております。今後も、当院独自の在宅支援の切り札として、役割を果たしていきたいと考えています。